【異世界農家】#4 異世界農家ですか……俺……

      2018/08/23

キツネの耳を持った少女、ルルガに連れられていったのは、村の奥にある少し大き目の家だった。

家とは言っても、現代日本の一戸建てと比べたら、小屋に過ぎない代物だ。細長い枝を組んだ柵と、太めの柱を基礎としてその間に椰子の葉のような植物を貼って壁の代わりにしたり、同じく植物の葉で作られた屋根。湿度は高いが風通しのいいこの住居は、ジャングルの中にはぴったりな性質を持っていた。

ただ……虫とか動物も入ってくるよな……。




そんな心配をしていると、小屋の奥へと消えていた老婆とルルガが皿を持って戻ってくる。そして床に座り込んだので、俺もそれに合わせて向かい側へと座る。……何故か正座になってしまった。

「さて……何から話そうかの」
「婆ちゃん、こいつはヤマダヒロキだ。向こうの世界から連れて来ちゃったみたいだ。よろしくな」

何やら考え込んでいる老婆の横で、ルルガは全く悪気もなく俺を紹介する。……おいおい、それで済まされるのかよ……。色々と思う所はあるが、ここはとりあえず挨拶をしておかなければなるまい。

「あ、あの……ヤマダヒロキと言います。ここは一体……どこですか?」

直球ストレートに素朴な疑問をぶつけてみた。

ちなみに持ってきた皿の中には、得体の知れない食べ物らしきものが入っていた。そして、虫とかが入っていないことにちょっとだけ安心する俺の心中を察して頂きたい。

「ふむ。やはりか……。ヤマダ殿、ここは黄金耳の一族が暮らす集落。この度は我が一族の巫女が申し訳ないことをした。巫女に代わりお詫びを申し上げたい」
「え?申し訳ない……?」

若干の不安を覚えながら、長老である老婆の話を聞く。

なるほど、あの耳だから黄金耳か……。分かりやすいネーミングは素晴らしい。素晴らしいけど、何故申し訳ないんだ……?気になり過ぎる言葉だ。続きを待つ。

「少し説明をせねばならんが、我が一族は、数年に一度、何かあった時のために使いの巫女を異世界へと送り込む儀式を行う。そしてその文化を取り入れながら、こうして繁栄を繰り返してきた。本来なら、お主の世界の文化を何か持ち帰り、村のために役立てるというのが巫女の役割だったのだが、まさか人間そのものを持ち帰るとは……」

……いや、そんな合コンみたいに言われても困るんですけど。別にうまいこと言ってないから!……というツッコミを必死で我慢し、沸いてきそうになる頭を冷やしつつ、頑張って状況を把握するのに務める。

さっきから状況把握祭りだぞ。この急すぎる展開について行けず、ちょっと口が半開きになっていたことに今気づいた。

「やっぱ、異世界ですか……。異世界農家ですか……俺……」

ぼんやりとそんな言葉が半開きの口から漏れる。婆さんが喋っている間、ルルガは皿に盛られた何だかよく分からない料理をパクパクと口に運んでいる。てか全然話聞いてない。待て待て巫女。巫女だろお前。原因作ったのお前だろ……!

「そうじゃ。また魔法陣を開くには、最低半年後の朔を待たねばならん。そして開いたとしても、お主がいた時代のお主がいた場所へ戻れるかどうかは分からん。残念ながらな……」
「えっウソっ!?」

内心でルルガに突っ込みながら、何とか平静を保っていた俺は、その婆さんの言葉に、驚きのあまり思わず大きい声が出てしまった。

その声に驚いたルルガが食事を止め、三角の耳をピクピクと動かす。

「え、マジで?戻れるかどうか分かんないの……!?」

謙虚な日本人としての矜持を忘れ、思わずタメ口で問いかけてしまう俺。焦りが表に出てしまったらしい。時間がかかるのはしょうがないにしても、まさか戻れるかどうか分からないとは……。こういう時はアレだ。巷で人気の異世界系ラノベを思い出してみよう。



……。

…………。

……………………。

……うん、完結してる作品が思い当たらん。

あっという間に袋小路に追いつめられてしまった。ちくしょう、エタってる奴ばっかりで結末が全く分からん……。色んな意味で絶望的になる俺。

「仕方ない。何か方法がないか調べてみることにしよう。……それまでは、しばらくこの村で待つといい」
「分かりました。よろしくお願いします」

そう言うと、老婆は再び枠だけしか無い扉から、奥へと戻っていった。……ルルガは相変わらず食事を食べている。おいおい……自分が原因を作った当事者だというのに、呑気なもんだ……。

「なあ、ルルガ。これは一体どういうことなんだ?」
「ん?さっきばーちゃんが言ってた通りだよ」
「それは大体分かったんだが、もう少しこの世界のことを教えてくれないか?ここは一体どういう世界で、ここはそのどの辺りの村なんだ?」

俺は少し勢い込んでルルガに尋ねる。その勢いに気圧されたのか、彼女は食べていた手を一瞬止めると、うーん……と眉根を寄せて考えこむ。その様子を見て、俺はしばらく待っていたのだが、うーんうーん……といううめき声が1分を過ぎた頃、とうとうしびれを切らした。

この村の様子だと、あまり文化が進んでいないのかもしれない。『この世界』の全容は、それほど解析が進んでいないのかもしれなかった。……て、ん?普通に日本語は通じてるな。

これはご都合主義という奴だろうか?全く意思疎通ができないのは困り者なので、これはこれで助かったが。

「……分かった悪かった。まずは、君たちの儀式のことを教えてくれ」
「儀式?この村では 困ったことがあると儀式を開く。そこで他の世界へ行って色々学んでくるんだ」
「何故、君は僕の世界に来たんだ?行く世界は自由に決めることができるのか?」

俺は色々と矢継ぎ早に質問を繰り返す。質問に答えることなら簡単なのか、ルルガは食事の手を止めて答えてくれた。

どうやら、異世界転送の儀式は恒例となっており、ということはまた元の世界へと戻ることも不可能というわけではないはずだ。何とかその部分の情報を集めなければ……。

「自由には決められない。儀式の途中で思い浮かべた場所に近い世界へ行くんだ」
「じゃあ、ルルガは俺のいた世界を思い浮かべたってことか?」
「……いや、うちはとてもお腹が空いてた。おいしい物を食べたいと思ったら、ヤマダヒロキがいた世界へ行ったんだ」

転送先の世界とは、どうやって紐付けられるのかと思ったが、それは転送時の精神状態が関係してるってことか。……それにしても、腹が減ったから俺の世界って……。このルルガという女の子は、イエロータイプの属性を持っているのだろうか。

というか……ずっとフルネームで呼ばれるのも違和感あるな。そこで若干視線を横に逸らしながら、頭をポリポリ掻きつつ提案してみる。

「あ、あのさ……フルネームはやめてくんないかな。ヤマダ……ってのもなんか俺だけ浮いてる感じでヤダな。なんで、ヒロキ……折角だから異世界っぽく、ロキでいいや。ロキって呼んでくれよ」
「分かった、ロキ」

にぱっと笑ったルルガは、短くなった呼称に喜んだのか、笑顔で答える。その表情に、ドキッ!としてしまったのは否めない。

うーむ、マズいぞ。ハーレムならともかく、俺が惚れてどうするんだ……。慌てて話題を元に戻す。

「おいしい物って……あのトウモロコシの事か?あれに引き寄せられてルルガは俺の世界に来たのか?」
「多分そう。……あれはトウモロコシというのか?また食べたい」
「そういえば、種を持って来てたな。こっちでも蒔いたら生えるかな……?」
「おお、それは凄い!ぜひ作ってくれ!」

そういえば、次に蒔く予定だった種をいくつか持ってきてたんだった。後で確認してみることにしよう。かなり食いついてきたルルガは、俺の手を両手で握ると、ブンブンと振り回す。

……よっぽどスイートコーンが気に入ったのだろうか。目の中に星が煌めいているのがよく分かる。

と、そこで冷静さを取り戻した自分もいた。そうか……こっちでの生活のことも考えないといかんのか……。三十路を過ぎた男の現実的な思考回路が憎い。

何とか情報収集をしつつ、この世界での生活について考えてみることにしよう。……うまく行けば、文明格差を利用して、内政TUEEEE!状態になれるかも分からんしな。そう考えると、少しずつこちらの世界への興味も出てくる。

「うーん、確かにすぐ戻れない以上、ここでの生活のことも考えないとな……。ところで、その食べ物は一体何?」
「これか?食べてみるか?」
「じゃあ、ちょっとだけ」

ルルガに薦められるがまま、皿に盛りつけられた料理を食べてみることに。ルルガがさっきからずっと食べていたのは、クレープをかなり固くしたような平たい生地に、何だか雑穀のような小さな豆類を煮た物を載せた代物だ。……何だろう?きっと南米とかの熱帯地域辺りの料理に近いような気がする。

ピザっぽい感じで食べてみればいいのかな?妙に彩りのないアースカラーベースの食事だが、さすがに死ぬことはあるまい。ノリと勢いでバクッと食べてみると。

「ぐっ!マッ……」
(まず……!)

マズい、という言葉を思わず口にしそうで、無理やりその口にした異物と共に飲み込んだ。

……何だこれは!?果たして本当に食べ物なのか?全く味のしない薄い煎餅……いやこれはまだいい。その上に、プチプチした食感の味のない豆っぽいもの。

なんというか……『甘さ』『塩気』『旨味』これらが全く無い。あるのは『酸味』がほとんどで、後は謎の風味もかなり混じっているのだが。

全体的に食感が固いのも頷けない。

この豆っぽいものの皮が固くて口に残るのだが、こっちの人はみんなこれごと食べてしまうのか?……ルルガもさっきから外に出してる様子はないので、多分飲み込むんだろうな。もうこうなったらヤケで一気に行くしか無い。

完全に勢いだけで口の中に残っていたものを全て飲み込む。無だ。心を無にするのだ……。

突然表情が固まった後、しばらく時間が経ってようやく動き出した俺は、思わず小さく呟いてしまう。

「何というか……俺の世界には無かった味だな」
「どうだ?うまいか?」
「……あ、ああ、自然な風味がナチュラルに健康的でヘルシーだと思うぞ」
「そうか。うちはこれより、断然あっちの世界にあったモノの方がおいしかったなぁ……」

そこへ無邪気で悪気なく感想を聞いてくるルルガ。

……何故か少し罪悪感を抱えつつも、あれこれ試行錯誤した後、よく意味が分からない返答をした俺だった。その意味不明な回答を褒め言葉だと思ったのか、ルルガは満足したように頷くと話を続けた。

「……実は、この村は今食べ物にとても困っている。村の近くにコボルド達が住み着いたんだ。あいつらがうちらの食べ物をみんな食べてしまうのだ」
「コボルド……?」

コボルドっていうとあれか?銀(コバルト)を腐らすって言われてる頭部が犬型のあのモンスターですか?

……え?やっぱり異世界ってことはそれ系ですか?ちょちょ、ちょっと待ってちょっと待ってお姉さん。俺全然チートでも何でもないただの農家なんですけど?魔法とかも使えそうにないんですけど?

……それとも、今後なんかの能力に目覚めて、突然勇者ルートに入るとか?

……いきなりファンタジー展開な話を聞き、むしろ食べ物よりも、そのせいで生唾をごっくんと飲み込む俺なのだった。

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