【異世界農家】#9 なんだこれは……めんどくさい性格の方でしたか……? 

俺の目の前数メートルの位置に、やや恥ずかしそうに大事な部分だけを隠しながら、頬を染めて俯き加減に斜め下を向いて、若干下唇を噛んでいる女性。

ルルガはなんとゆーか……一言で言うと『豪快』な体をしていたわけだが、目の前にいる彼女はそこまで豪快ではなく……というかむしろその仕草通り『控えめな』体をしていた。

セミロングな髪を軽く結い上げて、俺から数メートルの位置のまま、どうしていいか分からずにじっと固まっている。その状態に俺もどうしていいか分からず、あ……?とか、え……?とか言いながら、お互いに見つめ合って呆然とする時間が一分ほど続いた。のだが。

「そ、そんなに見られると……は……恥ずかしい……」
「え!あ!ご、ごめん……おわっ!」

静かに水の中に体を沈める女性がそう言うのを聞いて、俺も一気に我に返った。と同時に、俺も素っ裸で彼女の前に佇んでいたことを思い出す。




……なんとか、あまりの出来事に驚いていたおかげで、痴漢のような犯罪的反応はせずに済んだようだ……ふぅ……。

「だ、誰!?ごめん、ここで水浴びをするんなら、俺は向こうに行くから。あ、あとわざとじゃないんだ!ホントに!偶然だから!事故だから!」

慌てて弁解してしまう非モテ属性全開の俺。何だか分からんが、こういう時はとにかく謝るに限る。謝ればきっと世界はどうにかなると信じて謝るしかないのだ!

彼女から目を背けて、後ろを向きながら肩越しに話しかけると、女性の方から小さな声で返事があった。

「い、いや……そうではない。私が自分から来たのだ……ロキ殿。私はルルガの友人のミミナと言う。はじめまして」
「え……ルルガの……?は、はじめまして……」

何だかよく分からないが、彼女はルルガの友達だと言う。

そう言われてみると、確かに彼女と同世代ぐらいだ。ちゃんとけもみみも付いている。ルルガよりも若干ふさふさ系かもしれない……って俺はいつからそんな見分けができるようになったんだろう?

「えーと……あ、挨拶ならさ。服を着てる時にうちの方に来てよ。ほらあの村の外れの方にあるテント……って言っても分かんないか。あの裏が空地になってるとこだよ」
「い……いや、ロキ殿。わ、私は……だな。あの……その……できればロ、ロキ殿と親しくなりたいと思ってやって来たのだ。は、裸の付き合い……ゴニョゴニョ……」
「え?なんて?……ごめんそれじゃ俺はもう上がるからさ。ゆっくり水浴びしてってよ。んじゃ……」
「あ……ま、待って!」
「おわっ!?」

もじもじと要領を得ないミミナ……?さんの話を遮って、俺はそそくさと岸に上がろうとした。しかしすると突然、ミミナさんはがっし!と腕にしがみついてくる。あ、いや待ってダメだって当たって……!当たって……は無いな、そんなに。

しかし、裸の女性がすぐ後ろにいるというのは心臓に悪い。

思わず「わーっ!わーっ!おまわりさーん!」と何だか分からないが叫びたくなる衝動を抑えながら、「わわわわ……」と慌てていると、ミミナさんの目が心無しか潤んでいる事に気づいた。

「え……?ど、どうしたの……?」
「ダメか……?やっぱり私はそんなに魅力がないか……?」

マジ泣きしそうな表情で訴えてくるミミナさんに、さすがの俺も面食らって、その場に立ち尽くしてしまった。なんだ?何か切羽詰まった事情でもあるのか……?

 

***

 

「……というわけでな、巫女であるルルガを除いて、私だけが子供もおらず、相手もおらず取り残されておるのだ……」

それからしばらく、二人で川に浸かりながら、あまりお互いの方を見ないようにしながらも、何故か俺は彼女の人生相談を受けることになっていた。

途中からは「分かる、分かるよ奥さん。そりゃあ旦那が悪い。奥さんは何にも悪くないよ……」とか相槌を打ちたくなりながらも、彼女が訴えてきた理由はこうだった。

この黄金耳の一族の集落では、彼女ぐらいの歳になると、もう子供を産む年齢なのだそうだ。しかし、ここは女系部族の村のため、相手は外から来た旅人や行商の者ぐらいしかいないらしい。

既に友人たちは皆、相手を見つけて子供を産んでいる人も多いのだが、彼女はまだそういう相手はいないのだとか。それで色々悩んでいるそうなのだけど……?

「やはり、私のこの貧弱な体がダメなのだろうか……。いくら弓の腕は村一番だとしても、ルルガのようになんとゆーか、男性が魅力を感じるような体型でないと……」

さっきからこんな感じで、グルグルと自問自答を繰り返しているミミナ氏なのであった。

確か本当かどうかは分からないが、女系部族の村では男を奴隷のように攫ってきたり、種馬扱いされるような話があったような気もするので、そう考えてみると、この村は非常に良心的な所なのかもしれない。原因は向こうにあるにせよ、たまたま迷い込んだただの異世界農家を住まわせてくれるなんて……。

これは、何とかちょっとでも村の役に立たないと、種馬のような扱いをされてしまうのでは……?と、ちょっと寒気がした横で、相変わらずミミナはぶつぶつと悩みを呟いている。

そして段々、目がグルグルしてきているような……?




「あーやはり、あの時の商人に目を付けておくべきだったのか!いつもだ……いつも私は理想が高すぎると言われ、大事な所を逃すのだ。思えばあの時もそうだった。数年に一度と言われる大鹿を見つけた時も、念には念を……と思って入念に準備をしている間に、ふらっと現れたルルガが仕留めてしまったんだ!そうだそしてあの美味しそうな肉がルルガのあそことかあそこに付いて、私とはさらに差ができるのだ……!」
「あ、あの……、ミミナさん?」
「ルルガだって巫女でさえなければ、さっさと子供を作っているに違いない。そう考えると私だけ、私だけがまだ……!こうなればいっその事、痺れ毒矢を使うしか無いのか?とりあえず、くくり罠で動きを止めてから……」
「あ!あっの!ミミナさーんっ!!!」
「え?あ、ああ……すまないロキ殿。ついついボーッとしてしまっていたようだ」
「ボーッと……?ま、まあいいや。……あのさミミナさん。外から来た俺が言えることじゃないかもしれないけど、そんなに気にすること無いって。たまたま運が無かっただけだよ。なんてゆーか……ミミナさんは、十分に魅力あるから」
「……っ!?」

そういった瞬間、彼女の顔が目に見えるほど、突然ボッと赤くなったのが分かった。そして、ギュンッと首を百八十度回転させ、向こうを向いてしまう。な、なんなんだこれ……あからさま過ぎるほど免疫なさ過ぎだろ……どれだけの非モテ属性だったんだ……。

とは言え、俺もその気持ちは痛いほど分かる非モテ歴十数年の歴戦の勇士だ。言ったことは本心からだったし、向こうの世界では言いにくい台詞だったが、こっちの異世界に来たせいか、なんとなく口にしやすかったのかもしれなかった。

しかしとにかく、全くの善意から言った俺の言葉は、彼女にとっては予想以上にクリティカルヒットを与えたようで……?

「ほ、本当か……?」

向こうを向いたまま、尋ねてくるミミナさん。……俺も今更ウソだとは言えないし、まあネガっぽい性格を除けば、ウソじゃあない。

「本当だって。もっと自信持っていいと思うよ」
「本当に本当か……?お世辞とかじゃないのか……?」

う……なんだこれは……めんどくさい性格の方でしたか……?

ややイヤな予感がしつつも、今更後には引けない感じだ。

「ほ……本当だよ……。十分魅力的だと思うよ……」
「…………」

俯いてプルプルと震えるミミナ。

「……ん?」
「ロキ殿……」
「な……何?」

「では、私と子作りをしてくれっ!!!」

「わーっ!な、なんでそうなる!!!」
「頼む!いいだろ!魅力的だと言ったではないか!」
「い、言ったけど、それとこれとは話が別だ!」
「何でだ!いいではないか!子供を作るだけだ!それだけでいいのだ!」
「そ……それだけって、そういうわけには行くかよ!」
「じゃあもうそれでもいい。何でもいいからとにかく子作りをっ!」
「ま、待て!待ってくれ!る……ルルガーっ!助けてー!」
「ルルガ……やっぱりルルガの方がいいのか!?」
「そうじゃないって!そうじゃないけど……ルルガーっ!!!」

……そのしばらく後、駆けつけたルルガのおかげで、ミミナはようやく落ち着いて我に返ったのだった。異世界農業初日から、エライ目にあったぜ……。

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