【異世界農家】#15 うし、とりあえずこれはこれで良し、と

      2018/08/23

さて、コボルドが出るかもしれないからと言って、畑をやらないわけにはいかない。

やらなければ、自分たちの食い扶持も無くなるのだ。……たとえ何者かに盗られる可能性があったとしても、作り続ける。……それが農家と言うものだ。

そして、それと同時に盗難対策もする必要は、当然ある。人も少なくてモラルが無い地域へ行けば行くほど、こうした観念は低くなってしまうのだ……。

向こうの世界にいた頃は、その辺は甘く見ていたが、こちらに来てからは、文字通り死ぬ気で守らなければならない。……農業とはいえ、この世界はやるかやられるか……なのだ!




そんなわけで、修行タスクをこなしつつも、次の日からも畑作業は普通にこなしていた。残念ながら、ルルガたちは見回りで手伝ってくれる時間は無かったため、一人での作業だ。

まずは、先日播種した種が乾燥しないように水を遣る。一度土に蒔いた種は、適度な湿り気を保ったまま、ある程度発芽までの時間を待たなければならないのだ。

色々葉っぱを被せた下の土が乾いていないかどうかを確かめつつ、新たに汲んできた水やりをする。この暑さではさすがに地表の土は乾いていたが、入念に上に色々被せたため、完全に乾いているようでは無いみたいだった……よしよし。

「うし、とりあえずこれはこれで良し、と」

……誰にともなくそんな独り言を呟きつつも、続いての作業に移る。独り言が多くなってしまうのは農家の性だ、仕方ない。鼻唄を歌わないだけまだマシだろう。

たまにふと我に返り、誰かに今の独り言を聞かれてないかとキョロキョロした後、やっぱり誰も居なくてホッとしたり寂しかったり。……そんな繰り返しが農家なのだ。

と、ここまで一人内心で反省を繰り返すのがワンサイクルなのだが、そんなことをやっている間に畝の拡張を行った。

初日に比べたら何とか慣れてきてはいるのだが、まだそれなりには疲れる。でも何とか畝を二列増やすことができた。さてここには何を植えようか……?

考えてはみたが、結局他に直播きできそうなものと言えば、カブぐらいしか無かったので、カブにした。

生で食べても美味しい、サラダカブのはくれい、という品種だ。……ちなみに、こういうカブとかとうもろこしの区分けのことを「品目」それぞれの種類のことを「品種」という。農大を目指す良い子のみんなは覚えておくといいぞ?

カブの蒔き方は簡単だ。地面に少し溝を付けて、そこへ葉物と同じようにすじまきしていくだけだ。

アブラナ科の種はなかなか小さいので、深く埋め過ぎないように注意しなければならない。そして前回と同様に、表面に被せ物をして終了だ。

「よっし、カブはこれでOKと」

この調子で蒔いていけば、なんとか三ヶ月後には収穫した野菜が食べられる予定だ。まだこの世界のことはよく分からなかったが、自然環境が向こうの世界と同じなら、俺にもやれることはある……!

思わず拳を握って瞳に炎を燃やす俺なのだった……。

ガサガサッ

……ビクッ!

突然背後から聞こえてきた音に、ついビクッと震えてしまう。慌てて振り返った向こうには、見知った無邪気な笑顔が見えた。




「どうだロキ?芽は出たか?」

……ルルガだった。どうやら見回りの最中らしい。トウモロコシの様子がどうしても気になるらしく、またしてもしゃがみ込んでジーッと見つめている。

「おいおい、そんなに見つめても芽は出ねーぞ」
「そうなのか?頑張って見ててもダメなのか?」
「そういう問題じゃねーての。それよりもしっかり見張ってくれよ?折角作っても、コボルドに食べられちゃしょうがないからな」
「そうだ!その通りだな!あいつらめー、うちのトウモロコシ食べたらタダじゃおかないぞ!」

そう言うや否や、ルルガはやたらと張り切って、再びジャングルの密林の中へと戻って行った。相変わらず賑やかな奴だな……。

ようやく、あの天然なテンションにも慣れてきたような気がする。いきなり異世界の、右も左も分からない不便な暮らしになったのにも関わらず、こうしてのんきに暮らせていられるのも、あの、能天気な性格のおかげかも知れない。

……そう考えると、結構彼女には感謝してもいいのかも知れなかった。

「ま、無事トウモロコシができたら、腹一杯食わしてやるかな」

そんな風に考えて、また畑作業へと戻ることにした。

ガサガサッ

「ん……?」

またしてもルルガが戻ってきたのかと思い、すっかり気を抜いて声を掛けた。

「なんだ?何か忘れ物か?」

そう振り返った時、目の前にはルルガではなく、彼女と似ているが少し異なった耳を持った少女が茂みから顔を出しているのが見える。……村では見かけない子だ。

(ビクッ)

俺の声に驚いた少女は、なんだかキョドッているようだ。茂みから出てくることも無く、その場でモジモジとマゴマゴしている。

なんだ……?珍しいな……。

村の子は大抵、興味があれば真っ先に飛びついてきて、あれやこれやと聞いた後にすぐに飽きてまたどこかへと行ってしまう。……まあ簡単に言えばルルガを小さくしたようなものだ。

だが、目の前にいる子は大人しい感じで、俺と畑の方を見ながら、あぁ……とかうぅ……とかうめきながら、不思議そうな顔をしている。そう言えば、着ている服も村のものとは少し違うようだ。

なんだ?変な子だな……そう思って話しかけようとした時。

「ロキ殿離れろ!そいつはコボルドだ!」

突然、遠くからミミナの声が聞こえた。

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