【異世界農家】#26 なんだと……?何を企んでいる?

「あ、あの……」
「族長はいるか?話がある!」

俺とシバは、コボルドたちの洞窟の前で仁王立ちになりながら、近場にいた一匹のコボルドに対して話しかける。……あ、仁王立ちなのは俺だけで、シバは完全に逃げ腰だったが。

見張りでもいるのかと思っていたが、まさか人間たちが向こうからやってくるとは思っていなかったらしく、そこには俺がいた村と同じように、普通に日常の生活をするコボルドたちばかりだった。



農村に移住してみて思うが、農耕時代の暮らしとは、簡単に言うと「食うために生きる」だけの生活だ。

日々の食料を手に入れ、それを加工して調理する。そしてそれを食べて片付けをしているだけで一日が終わってしまう。空いた時間はそのための道具を作ったり保存食を作ったり……といった感じだ。

コボルドたちも例外ではなく、外ではメスのコボルドと思われる人々?が中心となって食事を作っているようだった。あちこちから湯気が立ち上っている様子を見て、少しお腹が鳴りそうになったが……なんだかあまり食欲が湧かない匂いだ。

「おい、シバ。これは何を作ってるんだ……?」
「どんぐりのような木の実を茹でて、アクを取っている所ですね。我々の主食です」

隣りにいたシバに対して小声で話しかけると、そんな答えが返ってきた。

木の実か……。日本でも稲作が始まる前の時代とかまでは食べていたはずだが、コボルドたちもそうなのか……。てっきり肉食なのかと思っていたが、雑食と言っていたし毎日肉を食べるわけでは無さそうだ。ならやはり……。

「何者だ……貴様!あの村のニンゲンだな!」

俺たちを見て、一気に騒然となったコボルド村は、今まで食事を作っていたメスコボルドたちが子供を抱えて逃げていき、代わりに兵士役のコボルドが粗末な武器を持ち出してきて俺の前へと立ちはだかった。

もしかしてこいつは俺を襲ってきた奴かな……?と思ったが、残念ながら俺にはコボルドの特徴を見分けられるようなスキルは持ち合わせていなかった。

慌ててシバが説明しようとする。

「ああああの……この人は……」

ダメだ。完全にキョドってる。

……仕方がないので、俺はシバの横に出て口を挟むことにした。



「そうだ。だが俺はあの村の者ではない。異世界から来た者だ」
「何……?異世界……?」

一応、コボルドたちにも『異世界』という概念は伝わったらしい。もしかしたら、前例でもあるのだろうか?

ルルガたちも儀式を行って呼ぶとか言ってたし……?

いや、今はとにかくこいつらとの交渉が大事だ。余計な考えは振り払った。

「ああ。だからあの村とは特に親しい関係ではない。それよりも、お前たちにいい情報があってやってきた」
「なんだと……?何を企んでいる?」
「何も企んでなどいやしない。ただ、ここにいるシバからこの部族の状況を少し聞いた。……俺なら力になってやれると思う」
「何……?そこのハグレからだと?」

横のシバは、耳をペタンと塞いで、完全に頼りになりそうもない。が、まあそれは予想通りの状態だ。完全に会話はこっちに主導権を握らせてもらい、交渉を進める。

だが、コボルドたちは聞いていた通り『チェンジリング』だったか……?シバのようなマイノリティに対しては信用性を持っていないらしい。

いかにも胡散臭くジロジロと見られた後、黙ってしまったようだ。仲間内でコソコソと内緒話もしている。

最初に俺と話していたコボルドは、それ以上何を言うでもなく何かを待っている様子だったので、俺もそのまま待機していると、奥から一匹のコボルドが出てくるのが分かった。

他の面々は、そのコボルドの歩みに合わせて、道を開ける。ということは……?

「族長、ハグレがニンゲンを連れて戻ってきたようです」
「うむ」

最初に会話をしていたコボルドがそう報告した「族長」と呼ばれた相手は、確かに他の奴よりも一回り体が大きく、毛並みなどにも少し風格が見られるような感じのコボルドで……あ、やっぱり気のせいかもしれない。

族長はジロジロと値踏みをした後、不機嫌な声で語りかけてくる。

「……誰かと思えば、先日川にいたオスのニンゲンではないか。どうしたのであるか?我々に捕まりに来たか?」

……ん?先日……?てことはもしかして、あの時俺の近くに来てた奴が族長だったってことか?あっさりルルガにやられそうになって退散した時の。

なんかそう思うと、急に威厳も無くなってくるな。俺の心に若干の余裕が生まれる。

「アンタが族長だったのか……。ちょうどいい聞いてくれ。事情は大体聞いた。今、この部族を含めたコボルド族は、数が増えすぎて食料が足りずに困っている。……そうだな?」
「……だとしたら、一体何だと?」
「俺は異世界から来た農家だ。たまたまあの村に住まわせてもらってはいるが、あの村の住人ではない。だから、俺ならアンタらの力になれると思う」
「なにぃ……?ニンゲンが一体何の力になってくれるというんだ?」

俺からの強気の交渉に、耳を伏せてかなり訝しんでいるコボルド族長。元来、コボルドは臆病な種族らしいので、いきなりのこんな提案にビビるのも無理はないだろう。だが、逆にそれは強気の姿勢で行けば何とかならないかと思っていた。

そして俺は、一枚目のカードを切る。

「俺が今作っている作物がある。それをお前たちにも分けるから、それをこの部族で育てればいい。そうすれば……あの村の食料を奪わなくても済むだろう?」

これが俺の、第一のカードだ。

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