【異世界農家】#27 分かった悪かった……俺たちが間違ってたよ……

俺は第一のカードを切った。……それは、食糧難に困っているコボルドたちに、俺が作っている作物とその種を与えて、増産する計画だった。

これがうまく行けば、俺が日本から持ってきた作物の栽培面積を増やせる上に、コボルドたちが持っているキノコが手に入り、食糧問題でお互いに争わなくてすむようになる……という目論見だ。

「なんだと?……やはりあの村の差し金ではないか」
「だから言ってるだろう。あの村とは関係無い。俺が作っている作物は、言っちゃあ悪いがこの世界の食べ物よりも格段にうまいはずだ。お前たちだってドングリを食べなくてもすむようになる」

必死に目力を込めて説得する俺に、コボルドの族長はそれでも疑いの眼差しを消さなかった。鼻の先端をヒクヒクさせて、何かの匂いを嗅ぐ素振りをしながら、返事をしてきた。



「本当か……?それで一体、オマエに何の得があるというのだ?何か裏がありそうであるな」
「俺のメリットは、うまいもんができて争いが起こらなければそれでいい。なのにそれどころか、お前たちが暴れるせいで、あの村は戦士を雇ってお前たちを倒しに来る準備をしているはずなんだぞ!」

「なっ……!」

「悪いことは言わない。お前たちの部族の人数がどれだけかは知らないが、戦なんか無い方がいいだろう?一旦身を引いて、そこで俺が作物の作り方を教える。それでこのシバの料理と合わせれば、今よりもっとうまいもんが食べられるはずだ」
「何……?それは……」

ルルガたちの村が襲撃の準備をしているということを先に伝えてしまうのは、彼女たちに対する重大な裏切りと言っても良かった。

貴重な奇襲の機会を奪ってしまったことになる。……だが、いくら世話になったからと言っても、俺はそんな血生臭い出来事を見過ごすことはできなかった。

それに、いくら優位だからとは言っても、戦いになればあの村の人たちにも犠牲は出る。……そんなことは俺には我慢ができない。

可能なら、出来る限り戦いを避ける方法を探るべきだ。でないと、今後相当長い間、この両者の間に禍根が残ることになる。

何とかこの条件を飲んでくれれば……。

「だが族長、そんなこと『アカグロ』が許してくれるのか?」

 

(ビクッ!)

 

そんな僅かな願いを、群衆の中の一人の台詞が簡単に打ち消した。謎の『アカグロ』という単語を聞いた瞬間、族長の瞳に怯えの色が走るのが見えた気がした。そして、ブルブルと震えながら、気が触れたように叫び始める。

「だ……ダメだダメだニンゲン!我々はそんなことはしない!来るなら来るがいい!やれるもんならやってみろ!一人残らず食い殺してくれるのである……!」
「ま、待て落ち着け!一体どうしたんだいきなり!『アカグロ』って何なんだ……?」
「そうだそうだニンゲン!我々の人数を見くびるでないぞ!やれるもんならやってみろ!」

族長の心境が乗り移ったのか、『アカグロ』という言葉の影響力がその場にいた全員に対しても伝わったのか、一気に場がヒートアップするのが分かった。俺たちを囲む輪が若干小さくなり、場が急に血の気を帯び始める。

「あいつらの数なんか対していやしない!みんなでかかれば大丈夫だ!」
「食え!食い殺してしまえ!」
「そうだやれやれーっ!」

次々に族長に続き、その場にいたコボルドたちの士気が一気に上がる。シバは完全に縮こまってしまい、何とかなだめようと声を上げる俺の意見も、一気に集団にかき消されてしまった。

「おいシバ、一体どうしたんだこれは!?」
「ぼ、ボクにも分かりません……!ただ、一つだけ分かるのは……」
「分かるのは!?」
「非常に……マズいってことです!」
「なんだと!」



場が騒然とし、集まったコボルドたちが皆騒ぎ出した。俺の額に冷や汗が流れる。

……隣のシバも、完全に怯えた表情でキョロキョロと辺りを見回している。

(まだ、想定外の要因があったか……!?)

チッと舌打ちをして、素早く周囲を見回す。さっきから何とか話し合いができるように呼びかけているが、誰も聞いちゃいないようだ。それどころか、皆一様にあの鼻先にシワを寄せた、完全に噛みつく気満々の表情をしている。

まだタイミングを図っているのか襲ってくる様子はないが、これは時間の問題か、何か受け答えにミスったらその時点でアウトだろう。仕方ない、次の段階に移るしか……。

「おいシバ、一度撤退だ」
「えっ……?」

怯えて俺の服の裾を掴んでいるシバにそう耳打ちすると、タイミングを見計らうべく、わざと油断した素振りを見せる。

さっきまでと打って変わった、諦めたような表情で身を縮め、完全に敵意を無くしたような表情を作った。

「わ、分かった悪かった……俺たちが間違ってたよ……」
「そうだ……!我々はお前らなどに負けはしない!」
「そうだそうだ!来るなら来いっ!」
「いや族長、こうなったらもうこちらから攻めるべきだ!」

……思った通り、事態はマズい方向に変わりつつある。俺は怯えたままの風を装いながら、シバを抱きしめて周囲から隠すように立つ。

「……準備はいいか?」
「は……ハイ!」

……&&$#*>……

周りから見えないように、シバが呪文を唱える。

その間俺の目は、こっそり周りを囲むコボルドたちの輪の中の最も人数が薄い場所を探していた。

コボルドたちのテンションは、MAXまでにヒートアップしていた。洞窟の中にいた者も、騒ぎを聞きつけたのか、中から槍などの武器を持って現れ始め、さっきまでは逃げていた親子連れの子供までもが、地面にある手頃な石を拾い始めた。

そして今まさに、その中の一匹が石を投げつけようとした時……!

『《妖精のかくれんぼ》(ステルス・フェアリー)!』

シバの魔法が発動した。

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