【異世界農家】#28 それより……危ない所でしたね

      2018/08/24

『≪妖精のかくれんぼ(ステルス・フェアリー)≫!』

シバの魔法が発動すると同時に、俺とシバを囲む周りに、渦を描くように突風が巻き起こった。

その風とともに砂煙が舞い上がり、周囲を囲んでいたコボルドたちが一斉に目を覆う。

「よし!今だ!」
「ハイ!」

俺とシバは、同時に駆け出した。



目指すはコボルドたちの輪の一角だ。囲みの中でも最も薄い場所を目掛けて、力の限り走り抜ける。

コボルドたちは、一瞬の後に俺たちがいた場所を見て目を疑った。……そこには『誰もいない』ように見えたからだろう。

「ま、魔法だ!ハグレの奴、魔法を使いやがったぞ!」

コボルドたちが急にざわめきだし、自分たちの周りをキョロキョロと探し始めた。武器を構えだす奴もいる。……だが、俺たちはそんな奴らには目もくれず、一目散に森の方へと走って行ったのだった。

ドンッ!

「わ、わわっ!こっちだ!」

突き飛ばされたコボルドが叫ぶ。

……そう、俺たちはシバの魔法によって周囲からは見えない状態となっていたのだった。……いや、正確には『見えにくい』状態というべきか。

≪妖精のかくれんぼ≫は、『風の精霊の力を借りて小さな砂の粒子を身にまとい、微小な水滴とともに体の周りを回転させることで光の乱反射を起こして、屈折率を変える』効果をもたらす魔法のようだった。

もちろん、シバからそんな説明を受けたわけではない。実際に効果を目の前で見せてもらって、そこから推測したのだ。風が起こることと効果が切れた後に周囲の植物の葉に付いた水滴と砂粒から判断したのだった。

それはごく微小な狭い範囲でしか起こらないため、離れた場所にいる者にとっては急に消えたように見えるのだろう。ただ、術者は集中を乱すわけにはいかないので、他の作業や魔法を使いながら……というわけにはいかないようだ。

しかし、走ることぐらいなら可能なようなので、俺はシバの手を取って元の森の中へと逃げ込んだ。

一瞬、コボルドたちは怯んだようだが、すぐにさっきまでの勢いを思い出し、一部の武器を持った奴らは後ろを追いかけてくる。

「いいか!ちゃんとついてこいよ!」
「はっはい!」

二人でランデヴーするのが美女でなくて残念だ……などという余裕は正直無かった。

ともかく、そんな魔法の力を借りたとはいえ、姿が全く見えなくなるわけでも、どこかへ瞬間移動するわけでもないため、俺たちは必死でコボルドたちからの追跡を振り切るために、全力で走らなければならない。

幸い、コボルドの体格は人間に比べて小柄なため、通常であればそれほどのスピードは無いはずだ。

だが、ルルガたちのような獣人族の力のことを考慮すると、油断するわけにはいかない。とにかく無我夢中で俺たちはさっきまでいた森の中へと逃げ込むのだった……。



「ふう、ふぅ……ど、どうだ?」
「ハッ……ハァッ……だ、ダメですもう走れません……!」

もう途中からとっくに魔法の効果は切れていた。……というか、シバの体力が持たずに切れてしまったというべきか。

最初の頃だけは少し石や矢が飛んできたものの、森の中へ入ってしまってからは飛び道具はもう役に立たない。後ろから追ってきている気配はしたが、とにかく一心不乱に後ろも振り返らずに逃げたおかげか、もうコボルドたちの声は聞こえなくなっていた。

「シバ、魔法で奴らの気配とか分からないか?」
「す……すみません……ちょっと体力が回復しないと、魔法は……」
「ああ、そうか……いや、悪かったな」

肩というか全身で息をしているシバを後ろに隠しながら、俺は辺りの様子を伺う。

村の外れの川の辺りまで戻ってきたため、さすがにコボルドたちも何の準備もなく来れるような場所ではないだろう。とは言っても、俺たち自身も村の人々に見つかる危険性もあるわけだが……。

「いえ、大丈夫です。それより……危ない所でしたね」
「ああ、そうだな。助かったよ……それより、あいつらが言ってた『アカグロ』って一体何だ?」

さっきのやり取りで気になったことをシバに聞いてみた。

だが、シバも眉間にシワを寄せ、耳を斜めに垂れさせながらしばらく考えているようだった。

「……すみません。ボクにも実はよく分からないんです。ただ、ボクらの集落では採れた食料を一部誰かにあげていたような気がします。それが誰かは分かりませんが、多分その……『アカグロ』なのかも」
「ふーん……なんかやけに怯えてたみたいだな」
「そうですねぇ……。コボルドたちの間にも序列のようなものがありまして、我々のような茶色の毛が短い種族たちとは違う、もっと凶暴な種族もいますので。他の種族のコボルドもたまに見かけたことはありました」
「そうなのか……そう言えば村の長老たちもそんなようなこと言ってた気がするな」

見たことは無く聞いただけだが、ルルガたちにも様々な獣人の人種がいるように、人間もホモ・サピエンスという種類であるように、コボルドたちにも色んな種類がいるというのは十分にあり得る話だ。

よくあるファンタジーの世界では、コボルドはコボルドと一括りにされていたが、確かに色んな犬の種類がいることを考えると、コボルドだって色んなのが居てもおかしくはない。

パッと見、シバは例外として、さっきまでのコボルドたちは日本で言う『柴犬』の頭に似た種族だったため、怒った時を除けばそれほど怖い印象は無い。だが、他の種族はもちろんそうとも限らないし、猟犬などのように好戦的な奴らだっているのかもしれなかった……。

ということは、さっき見落としていた要素はこれだったのかもしれない。

そのせいで交渉は残念ながら決裂してしまった。次の方針を決めるためには、この要素を頭に入れておく必要があるだろう。

……しかし、果たして穏便に済ませられるかどうかは大分難しくなってきてしまったようだ。あれほど騒がせてしまった上に、獣人族が戦の準備をしていることを知らせてしまった以上、それほど時間は無いはずだ。

「参ったな……第二のカードで済ませられればいいんだが……」
「シッ!ロキさん!誰かいます!」

俺が頭を悩ませていた時、突然シバが声を発した。

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