【異世界農家】#30 さーて、それじゃあやるか!

      2018/08/24

ハァッ……ハァッ……!

もうこうして全力で走るのは何度目だろうか?しかも、なんだか行ったり来たりだ。

俺とシバは、ミミナから離れて、再び森の奥へとやって来ていた。大まかな感覚で言えば、ここはちょうど黄金耳の村とコボルドたちの巣の中間の辺りのはずだ。

……さっきから走り詰めな部分もあり、俺たちはここでしばらく休憩することにした。



「この辺で……少し休むか」
「も、もう走れません……!」

近くの湧き水を汲んで来て飲む。動物の皮を鞣して作った袋が水筒代わりだ。衛生的な日本の食環境で育った俺には、雑菌が怖い状況ではあるが、最早そんなのは今更だろうか?

今まで散々水浴びだなんだとやっていたのだから、気にするようなことでは無いと思い直した。
シバとお互いに腹が減ってきているのを知り、シバに魔法で見張ってもらいながら、昼飯を食べることにする。

「毎回悪いな」
「……いえ、料理は好きですから。あまり時間がないのでこんなもので申し訳ないですが」

そう言ってシバは、黄金耳の村を出る時にもらった干し肉に、水で戻した乾燥キノコを乗せて、薬味の葉っぱを一枚乗せると塩をひとつまみかけて俺に渡した。噛めば噛むほど味が出る干し肉と、同様にアミノ酸の出汁を凝縮した乾燥キノコ。そしてピリリとアクセントの付いた薬味が塩分の足りなくなった体に……う〜ん、素晴らしい!マジ有能。

「十分だよ。それより、この後の行動を決めないとな。もう時間が無い。切るのは最後のカードだ」
「最後の……ですか……」

俺が発した言葉に、シバは浮かない顔をした。

『最後のカード』というのは……要するに『戦う』ということだ。ただ、村の人達とコボルドが全面戦争にならないように、最小限の戦力で最小限の被害に留めて無力化させ、屈服させるということだ。これまでにシバから聞いた話を元に立てたプランの、最後の一手だった。

もちろんこれもうまくいくか分からない。先ほどのようなこともある。……だが、これがうまく行けば、文字通り問答無用で決着が着くはずだ。そして、うまくいくかどうかは俺たち次第……ということなのだった。

「悪いな。結局俺の力が足りず、こんなことになっちまった」
「ロキさん……さっきから謝ってばっかりですね。いいんです、気にしないでください。僕自身が選んだことですから。それに……ずっと『ハグレモノ』と言われ続けてきた僕が、初めて誰かのために行動して喜ばれたり、必要とされるようになったんですから。怖いことだってありますけど、それ以上に……嬉しいことだってあります。例えば……こういう風に、誰かと一緒に並んで食事をすることだって」
「……。そうか。そうだよな。分かるよその気持ち。俺もうまいものが食べたくて農業を始めたんだが、結局一番メシがうまいと思ったのは……『誰かと一緒に食べること』だったんだよな」

シバの言葉で、再び忘れていた初心を思い出すことができ、俺はシバの方を向いて笑った。シバも少しだけ俺の言葉に驚いた顔をして、同じように笑う。

……最後かもしれない食事が、こんな風に穏やかで幸福なもので良かった。
しばらくそうして食事を噛み締めた後、俺とシバは顔を見合わせて立ち上がった。

「さーて、それじゃあやるか!」

 

***

 

「ニンゲンだぞ!ニンゲンが来たのであるぞー!」

そんな声がコボルドたちの巣の周りに響き渡ったのは、次の日の昼をしばらく回った後だった。いつもなら昼食が済んでコボルドたちの動きが鈍くなる頃に合わせて、俺とシバは再びコボルドの洞窟の近くまでやって来ていた。

「いいか……?行くぞシバ!」

周囲には自分一人しかいないのにも関わらず、俺は一人でそう呟くと、持ってきた弓に矢を番えて放った。

だが、ロクに練習もしていないのは明らかなため、案の定、放った矢はあさっての方向へ飛んで行く。……そして食事に使ったと思われる、片付けてあった鍋の底に当たって、カン!と音を立てて落ちた。

「……敵襲!敵襲ーッ!」

冷静に考えれば大したことはないというのに、突然飛んできた矢に驚いたコボルドは、周囲に響き渡るような大声で叫んだ。……臆病なコボルドらしい反応だ。よしよし。

その声を背中で聞きながら、既に俺は走りだしていた……そう、後ろに。

先日の件もあり、もう十分にピリピリと殺気立っていたコボルドたちは、まんまと俺の後を追いかけてくる。ざっと見える範囲では、その数三十といった所だろうか。

特に陣形を組むでもなく、誰かが統率するでもなく、ただ怒りに任せて後をついて来ているような雰囲気だ。

……その様子を見ながら、俺は第一のスポット『マキビシロード』へ向かった。



「オラァ!弱っちいコボルドなんて、俺だけで十分だぜ!かかって来いよ!」

茂みの入り口で仁王立ちになり、後ろから追いかけてくるコボルドの戦士たちに向かって喉が破れるんじゃないかというくらい叫ぶ。……ここからが、第一の関門だ。

単純なコボルドたちが後ろからちゃんとついてきているのを見ると、再びダッシュで俺は逃げるように駆け出す。

辺りは茂みでありながらも、森の中で人間やコボルドたちが歩いてできた、獣道が残っていた。しかし、背の低い雑草が生えているため、地表は見えない。

……ここを、俺は第一の迎撃ポイントと決めていた。

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