【異世界農家】#31 「逃がすのでないぞ!観念するのである!」

      2018/08/24

第一の迎撃ポイント、マキビシロードは簡単だ。

『撒き菱』を撒く、というだけに適した場所である。日本人なら誰しも知っているだろうが、あの忍者が使うと言われる撒き菱は、実は植物が元なのである。

日本にいた時に知り合いになった忍者によると、「忍者とはその場に溶けこまなければならない」ため、見て明らかに忍者と分かるような物は持っていなかったらしい。なので、自然由来の物を道具として持ち、如何にそれらを応用するか?……という部分に特化した職業でもあったようだ。




というわけで、森の中で見かけた沼に「もしかしたら……?」と思って探してみたら、見事ミソハギ科のヒシが生えていたのだ。

周囲を探したら、いくつか乾燥したものもあり、さらに追加でシバの魔法で乾燥させて、即席の『マキビシ』の完成だ。

森の中に入ったため、弓矢で狙われることは無いだろうとは思いながらも、若干後ろを警戒しながら、懐からありったけのマキビシを取り出す。そして、コボルドたちに気づかれないようにしながら、足元にポロポロとこぼし始めた。

……やがて、後ろから「ギャッ!」とか「痛っ!」というような声が聞こえてくる。

どうやら効果ありのようだ。

マキビシの効果は、直接的なダメージというよりも、心理的効果により足を鈍らせる部分にある。何とかその狙いは成功したようで、さっきよりも追手の速度は鈍ってきたらしい。

その間に、俺は次なるポイントへと足を運んだ。



次なる迎撃ポイントは『蓮沼』だ。

マキビシのおかげで、固まって追いかけてきていたコボルドたちの一割ほどの足が鈍ったらしい。先ほど見た時よりも、若干数が減っていた。

俺はヒシが生えていた沼の手前に立ち、追いかけてきたコボルドに対して、先ほど作っておいた即席の『スリングショット』という手持ち型の小型投石器を使って、小石を投げ始めた。

それは何匹かに命中し、再び「ギャッ!」と悲鳴を挙げさせたが、それは単なる時間稼ぎに過ぎなかった。所詮は石なので、余程の箇所にでも命中しなければ、致命傷など与えることはできない。

だが、原始的な武器のためか、逆に奴らの闘争心には火が点いたようだ。

「おのれぇ〜ニンゲン!卑怯なり!」

追いついてきた部族のボスが、憎々しげに俺に向かって吐き捨てる。

そうだ……もっと激昂しろ!俺は、その敵愾心を煽るように、ニヤリと悪そうな笑みを見せた。

……こういう役回りは苦手じゃないぜ!カッコワライ……という感じだ。

「逃げ場が無いように、囲んで追い込むのだ!」

族長が他のコボルドたちに対して指示を出す。

おそらく、こういう指示ができるから奴がボスになったのだろう。やはり、狙いはアイツだ。

……とにかく、激おこなコボルドたちはボスの命令に従って包囲網を作ると、俺の投石になど怯むこと無く、合図に合わせて両手で顔を防御しながら俺の方へ突っ込んでくる。

「逃がすのでないぞ!観念するのである!」

飛び掛かってきたコボルドの手が、俺の体に伸びる。

あわや鉤爪が届いたかと思ったその瞬間……!俺はすかさず反転して『沼の方へと』駆け出した。



「愚かなりニンゲン!そこは底なしの沼だと知らんのであるか!ハッハッハ!」

後ろから聞こえるボスの声を尻目に、俺が沼の中へと大きく跳躍する。そして俺の足が沼の中へと沈むかと誰もが思った時、俺はそのまま『沼の上を』走って駆け出していた。

「な、なんであるか……!?」

この時、俺が後ろを振り返っていれば、多分マヌケな顔をしたコボルドのボスの顔が見えたのであろう。実に残念だったが、あいにく俺にはそんな余裕など無かった。というのも……?

「族長!葉っぱだ!奴は葉っぱの上を走ってるぞ!」

一匹のコボルドが、そう叫んだのが聞こえた。

そう……俺は、沼の上ではなく『蓮の葉の上を』走っていたのだった。

念のため説明しておくと、蓮(ハス)というのは、ハス科の多年生水生植物のことだ。よく沼や池の上に浮かんで咲いている、あの植物である。

このハスを使う作戦は、既に予想はできていた。というのも、ハスは本来熱帯地域のインドが原産の植物だ。なので、この地域の環境や沼があったことから、おそらく生えているだろう……と予想し、その予想は的中した。ただ、それだけでは特に意味は無かったのだが……?

「お、追え!追うのだ!奴ができるのなら、我々にもできるはずである!」

後ろからそんな声が聞こえて、続いて次々に走りだす足音も聞こえる。が……。

「う、うわぁっ!」

ドボッ!
ボチャッ!

……同時に、次々に沼に落ちる音も聞こえてきた。

「こ……この、不器用たちめ!」

ボスはそんな風に罵倒していたが、まあそれも無理も無い。何故かと言うと、俺自身『実は身体能力で渡ってなかった』のだから。

……これは、向こう岸に隠れているシバの魔法【舞い踊る銀蜻蛉】(ダンシング・ドラゴンフライ)のおかげだ。

これは背後からの風の精霊の追い風と、一時的に足の接地面の水分子の密度を高めることにより、局所的にダイラタンシー流体のような状況を作り出す効果が……ってそんな説明をしてる場合じゃなかった。とにかくこの魔法のおかげで、俺は沼に沈むこと無く、蓮の葉の上を走って対岸へと渡ることができたのだった。

もっと高位魔法になるか体重が軽い人間なら、実際に水の上も歩けるらしいが、今の状態ではこれが限界だった。

でもそのおかげで、驚くコボルドたちは俺に弓矢を放つことも忘れて唖然としている。

対岸に着いた俺は、そこへ風の魔法の力を借りて、再び準備しておいた石を投擲するのを忘れない。……よし、また二人倒したな。

そこまでやって、ようやくコボルドたちは我に返ったらしく、さすがに沼を渡ることは諦め、迂回して俺の方へと向かってきた。

 

……よし、次のポイント『葛の草原』へ向かうか。

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