【異世界農家】#37 ヤバい何だかヤバいぞ……!

      2018/08/24

「じっとしてくれ。今応急処置をする。……我々の先行隊が奴らの巣に辿り着いたら、ほとんどもぬけの殻だったので、おかしいと思ってルルガと二人で探していたんだ。離れたコボルドたちを追っていったらここに辿り着いたんだが……まさかこれを一人でやったのか?」

ミミナが手際良く俺の右腿に布を当てて縛り、圧迫止血をしながらこれまでの経緯を話してくれた。

右腿はかなり痛いが、骨などには異常は無さそうなので、この後化膿さえしなければ何とか治りそうな気はするが……。

「ああ、何とかな。けど助かったよ……正直、この先どうしていいか分からんかった。ホント助かった」
「全く、無茶をして……!」
「ホントですよロキさん。見てる方がハラハラしました……」
「シバもな。ありがとう。お前がいなかったら何にもできなかったよ……ておい待てルルガ!族長には話があるんだから!食べるな!」

腹が立ったからなのか、本当に食おうと思ってたのかは分からないが、倒れた族長の頭に齧り付いているルルガが見えて、慌てて静止する俺。……アイツならマジで食いかねんからな……。

てか食ったり殺してもらっちゃ困る。俺が何のためにこんなに苦労してきたっていうんだ……。



ミミナに支えてもらい、鍬を杖代わりに突きながら、俺は族長の方へと近寄っていく。ルルガに首根っこを掴まれた族長は、どうやらとうとう観念したようで、しんみりと大人しくしていた。

「ニンゲン……私の負けだ……」
「……」
「殺すなら殺せ……食うなら食え……だが、村の他の者たちだけは……」
「ちょっ……と待て。誰が殺すなんて言ったよ」
「うむ?」
「ましてや食うかっ!……俺は最初から言ってただろ。俺が食料を増やす方法を教える。だからお前らはこっちの村の近くに来るなって」
「ニンゲン……」

どうやら、まだ全然事情が飲み込めていないらしい族長は、目を白黒させて不思議がっていた。

まあ大体想像は付くが、「ニンゲンがうまい話をして騙そうとしたけどできなかったので、逆ギレしてぶっ殺そうとしてきた」とでも思ってるんだろう。

……まあ、そう思われても仕方はないかな。確かにかなり挑発したし。けど、俺は最初から和睦の道を選んでいたつもりだった。残念ながら、最終的には高圧的和平になってしまったけど。

だがこれでようやく、交渉の場が設けられたわけだ。後はどうやってこいつらに農耕を教えるかだが……?

「ロキ。……何か視線を感じないか?寒気が……」
「ん?そうか……?」

突然、ルルガが変なことを言い始める。

が、辺りを見渡してみても、何の気配もない。……というか、ルルガに分からないのであれば、俺に分かるはずも無い。

どこか落ち着かない様子のルルガを放置して、族長の話は続く。

「ニンゲン……元来、我々短茶毛族は争いを好まない部族だった。お前たちが争いを望まないというのであれば、それは理解できる」
「……だったら、俺の言うことを理解してくれるか?」
「ただ……残念ながら、そうしたいのはやまやまなのだが、我々にはそれを納得できない理由があるのだ……」

コボルドの表情はまだあまり見分けが付かないのだが、なんだか族長は申し訳無さそうな顔をしているようだった。

……どうも別に、嘘を吐いているようには見えない。

それどころか、どこか……震えている……!?

「おい……ロキ!ヤバい何だかヤバいぞ……!」

再び後ろからルルガが声を掛けてくる。

何のことだか分からない俺は、やや鬱陶しそうに返事を返した。



「一体どうしたんだよルルガ!?今大事な話を……って何……え!?」

振り返った俺の目に映ったのは、怯えたようにガクガクと震えているルルガの姿だった。

さっきまでは平然とどころか、調子に乗ったぐらいコボルドの族長の頭を齧っていた彼女が、急にどうしたっていうんだ?

よく見れば、さっきから黙っているミミナも、自分の体を抱き締めながら、地面に座り込んでいる。表情は強張ったまま、冷や汗までかいているようだ……。

「え、ミミナ……?」
「ロ……ロキ殿には分からないのか……?」
「そんなこと言われても、一体何のことだか……」

シバの方を振り返ると、こちらも同様にワナワナと表情を震わせながら、後ずさりするのが見えた。

……視線はどこか、遠くの方を向いている。

「あ……あぁ……っ!」
「ロキ……!いるぞ……かなりヤバい何かがいる……」

俺は一体何が起こっているのか分からないまま、周囲を注意深く見回していた。

ただの人間には分からない何かが起こっているというのか……?

俺以外の全員がその異変を感知して、怯えている。

だが、特に周囲には変わった様子は見えない。一体何が起きて……?

「アカグロ……」
「アカ……グロ……?」

ふと足元の族長が呟く声が聞こえた。

『アカグロ』

さっきまでは忘れていたその単語を思い出す。

……そうだ、確かに前回の交渉の時も、その単語が出た瞬間、辺りの空気が変わったんだった。

「あ……あぁ……なんで……!?なんでアカグロがこんな所に……!?」
「おい、族長!なんだ!?アカグロって一体なんだよっ……!?」

……何だ?アカグロって一体……!?

ワナワナと震える族長の肩を揺すって問い詰める。

しかしその答えが返ってくる前に、急に遠くから野鳥の群れのようなものが飛び出すのが分かった。

バサササッと音を立てて、何匹かの鳥が飛び立つ。

そして俺たちが一斉にそちらの方を向くのと同時に、巨大な黒い影が俺たちの目の前に現れるのが見えた。

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