【異世界農家】#44 農家の朝は早い。

農家の朝は早い。

もうこの歳になると、6時間も寝たら勝手に目が醒めてしまうのだ。

一日働いて体を動かし、風呂に入って飯を食ったら、もう12時をまたいでは起きていられない。それでもなんとか色々やらなければならない事務仕事をやっていると、いつの間にか寝落ちしてしまい、気づけばまた朝が来るのだ。

……そう。明けない夜はないのだから……。



なんてかっこいいことを考えながら、サクッと食パンを食べて準備をする。

……多くの人が誤解していると思うが、農家だからといって毎日副菜たっぷりの健康的な食事をしていると思ってもらっちゃ困る。

特に俺のように新しくIターンをして一人で農業を始めた人間の場合、日々の作業をこなしていると全然時間が無くなってしまう。

一日三食、毎回自分できちんとした料理なんかしていたら、畑に出る時間自体が足りなくなってしまうのだ。

なので、ここん所はずっと、朝は食パン、昼はラーメンの生活を送っていた。

場合によってはネットでの営業活動にも勤しんでいるため、夜はカレーの時も多い。

カレーはいい。

何と言っても食材を選ばない。余った材料は全部カレーにぶっこんでしまえば、それなりにうまくなるのだ!

いやー、ここでカレーの素晴らしさを小一時間語るのもいいが、そろそろ朝の作業の時間だ。畑に行かなければならない。

植物は日々の光合成活動のほとんどを午前中に終えてしまう。

そのため、朝日が登ってから昼までに、光合成の材料となる水分が十分に必要となるのだ。乾燥する春先にはそこに注意しなければならず、何度か灌水と言って水やりをしなければならない。

それに失敗すると、ワンシーズンの作付けがダメになる場合もあり、結構重要な任務なのだ。

ワンシーズンまでは行かなくとも、種をまた播き直しになってしまうと、収穫がさらに一週間以上遅れてしまうことになる。

 

農業というのは、基本的に薄利多売の商売だ。なので、大量に作って大量に捌かなければならない。

そして、工業製品とは異なるため、一年のうちに作れるシーズンも決まっている。

貧乏な俺は立派なビニールハウスなどの設備は揃えられなかったため、そんなハイテクな農業をすることはできない。

すると、頑張って季節に合わせた野菜をシコシコと作るしか無いのだ……。

 

そうこうしているうちに畑に着いた。

今は夏なので、朝の水やりはとりあえずやらなくても良さそうだが、トウモロコシの収穫のシーズンになれば話は別だ。

朝採り野菜のニーズは未だに多い。でも実は朝採り野菜のおいしさというのは、ただ単純に夜間の間に水を吸い上げた瑞々しさがあるから、というだけであり、実は糖度に関しては夕方採りの方が高いのである。

それは先ほど伝えた通り、植物は午前中に光合成を行い糖を製造し、夜に呼吸を行いながら糖を消費して成長する。

なので、夕方ぐらいが一番糖分を多く溜め込んでいるということなのだ。なので、贅沢なあなたは夕方に採ったトウモロコシを選ぶと、一番おいしいタイミングで食べられることだろう。

というわけで、さーて今日もトウモロコシの収穫だ。



肩から下げるプラスチックの網でできたカゴをぶら下げながら、俺とちょうど同じくらいの高さのトウモロコシのジャングルの中へと突入する。

トウモロコシなどのイネ科の植物は、その体にケイ素という鉱物に多く含まれる成分を含んでいるため、人間の肌が葉っぱなどで切れやすい。通称『イネ負け』と呼ばれる現象だ。

だから、必ず長袖長ズボンのツナギのような服を着なければならないし、帽子を被り、場合によっては顔もタオルか何かで防御しておかなければいけない。

これがこの真夏の作業においてはかなりキツい作業となるのだ。

朝の収穫が終わっただけで汗だくになり、もうシャワーを浴びたくなる。そしてたまには実際に浴びる。

そんな重労働の収穫作業を行い、ただひたすらにトウモロコシの実を茎からもいではカゴに入れ、もいでは入れ、入れてはもぎ、もいでは捨てる……という作業を行うことになる。

別にこだわっているわけではないが、とにかく労力を削減するため、とりあえず放置して無農薬状態で作っているので、タイミングが悪ければ全てアワノメイガという蛾の幼虫に全て食い破られてしまう。

で、それをできるだけ防ぐために、やや早めに収穫して若採りを心掛けているのだ。

しかしそれでも所々虫食いのトウモロコシは存在するので、あまり酷い奴はその場で捨ててしまう。

それ以外は全て収穫し、後でまとめて綺麗な奴とそうでない奴を分ける『選別』という作業がある。

結構これが重要で、良くない品質の物、通称『B品』をたくさん作ってしまうと、それだけで時間と労力がかかり、しかも値段も下がるので全く儲からなくなってしまうという……ん?

その時、俺は気が付いた。

この辺り一帯だけ、虫の虫害とは違う、全く別の何者かにトウモロコシが食われているということを。

それは見ればすぐに分かる。何故なら、トウモロコシの茎ごと倒されて、まるで野生の獣に齧られたような痕が残っているからだ……というかそのまんまの通り、ここらには野生の獣が現れるのだ。

奴らはトウモロコシなんて甘いモノは大好物なので、この時期になると必ずやってくる。

タヌキやハクビシン、場所によってはアライグマなんかが割とメジャーな魔物なのだが、この辺りは寒いだけあってキツネがたまに出没していた。

これもおそらくキツネの仕業だろう。

あいつら、夜たまに人の家の前で物凄い声で鳴いたりするから、いるのがすぐ分かるんだよなぁ。『ギョェーッ!!!』みたいな感じで。しかもエキノコックスとかいう質の悪い寄生虫もいるし、なんて言うかホント質が悪い。

それに人の言うこと聞かないし、すぐに目を離すと作った作物つまみ食いしようとするし、やたらとよく食べるし、精神年齢ガキすぎるし……って、ん?

 

あれ?……なんか違う気がするぞ……?

キツネってそんなんじゃ……。

なんだっけ……?

最近の俺はそんなことやってなかったようなような……?

こんなのどかな畑じゃなくて、確かもっと殺伐とした何か……。

「……おい……!」

ん?誰かの声がする。

「おい……おいロキ、そろそろ起きろ……」

誰だ?……なんか可愛い感じの女の子の声だ。

「起きないとそろそろ文句が出てくるかもしれないぞ……?」

うちの村には、こんな可愛くて若い子はいなかったような気がするけどな……?

「村のみんなが『農家なのに全然農業やってないじゃないか』って言ってるぞ……?」

いや待て!

農業やってないって、ガチで農業のこと書いたら、全然面白くないからな!

三日目、水をやった。
四日目、草を取った。
五日目、続きの草取りをした。
六日目、また最初の辺りが伸びてきたので草取りをした。

……そんな感じの日記とか、誰も読みたくないだろ!?

起承転結も何もあったもんじゃないって!

……って、俺は誰に言い訳をしてるんだ?

あれ?俺は確か……。

「お、起きたかロキ。おはよう」

目を開けると、そこはやっぱり、けもみみ娘たちがいる集落のテントの中。

どうやら異世界農家の第二クールが始まるようだった。

 

二章へつづく

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