これからの新規就農者が陥る状況とは

      2017/05/14

全く気配を見せていなかったが、実は今年も野菜を作っていた。と同時に、改めて新規就農の厳しさ、難しさを感じたのでまとめておこうと思う。



生産

まずは当然ながら、生産技術がしっかりしていなければならない。これは想像するよりも結構大変なことで、自給自足レベルの「綺麗にできたらいい」という話ではない。あくまでビジネスに則って、「相手が必要とする時期に必要とする品質で必要数を揃える」ということが必要となる。

これを、それまでの経験が無かったり、外からやってきて環境や土壌の状態が分からない人間がクリアするのは非常に大変だ。近年メジャーになってきたように土壌分析をして施肥設計をして、それに基づいた栽培を行えばいい……というわけではない。特に最近の極端な気候変動条件下においては、きちんと栽培理論を分かっており、それに応じた適切な対応ができることが必須だし、同時にそれが可能な環境や機材などを整える必要もある。

出荷

次に、収穫したものを引き取りに来てくれる業者であれば問題ないが、そうではない場合、出荷作業が必要となる。今では農作業の半分以上がパッケージと出荷作業だと言われている農業において、この出荷作業が占める割合はバカにならない。

土は洗うのか洗わないのか?袋には入れるのか入れないのか?何号の袋に入れるとちょうど良いのか?出荷箱はどんな物にするのか?それでどれくらい保つのか?包装の仕方は?何をどれくらい入れればどれだけの重さになるのか?……など、決めることもやることもたくさんだ。どこにどれだけ運ぶのか?というのも重要だ。時間と交通費がかかる。単品目を栽培するのが手軽だというのは間違いないだろう。

経理

お金の管理は問題なくできるか?簿記や確定申告など、経理の仕組みを知っているか?……ちなみに、農業簿記は結構特殊であり、仕組みそのものは単純でありながらも、特殊ルールが多いので逆に戸惑うことも多い。何度か税務署に質問してみたりしたが、職員自身も知らないことが多く、どうしていいのか分からないこともたまにあった。

そして、ただ管理をすればいいというだけではない。ちゃんとそれによって利益が出るようにしなければならないのだ。原価と売価と利益について考えられているか?……特に最近は業界が急変し、参入者がバブル的に増えている状態でもある。今が大丈夫だからといって、今後も問題ないとは限らない。農業とは経営スパンが非常に長い業種だ。さらに中々足を洗いにくい職業でもある。何年も……場合によっては十数年先のことも考えておかなければならない。

営業

そもそも、利益がどうのこうのと言う前に、売り先はきちんと確保できているのか?先程も書いた通り、今は参入者が激増しているのに加え、まだ上の世代が生き残っている状態だ。今後減少が予想される……などと言っても、元々農家は多すぎたのが問題の種だ。入れ替わりがまだ本格的に起こっていない現在、農家数の過剰状態は想像以上かもしれない。

そして、営業活動というのは一度就農してしまうと難しい。……というのも、商品ができる時期が一番忙しい時期なのだ。物も無いのに営業がうまく行くはずもない。かと言って、物を置き去りにして営業活動をするのも難しい。ネットなどでリモート営業活動ができる相手がどれだけいるか……?結局のところ、どちらかをトレードオフで行うしか無いのだ。

マーケティング

どのマーケットを攻めるのか、ターゲットは決まっているか?新規就農者というのは、大体の環境が似ているため、みんな同じターゲットを狙いやすい。あっという間に競合が激増している状態なのだ。そもそも、日本の農作物は飽和状態にある。そこから飛び出すには、それなりの個性が必要なのだが、果たして新規就農者がそこを目指すことができるかどうか……。みんな考えていることは同じだ。

政府は農業者を増やそうと、入り口だけは大きく広げているが、そのマーケットの実際はレッドオーシャンである。ワガママを言わなければ、日本は食には何の不自由もしない国だ。その中で商品を売ろうとすれば、新たなニーズを探る必要があるし、そこから具体的に掘り起こす必要もあるだろう。いわば新規事業の立ち上げに当たるので、これも簡単にできる話ではない。

広報(メディア)

何とか商品はそれなりの物ができた。では、それをどうやって広めようか?……これも最近分かったことだが、消費者は思った以上に情報を知らない。そして、思った以上に農業に興味が無い。……みんな、メディアで騒がれているそれっぽいネタに一時的に反応しているだけなのだ。

いわばこれはブームなだけなので、それに乗っからずに差別化を図ろうとした場合、オウンドメディアとしての情報発信が必要となってくる。すると、ただでさえ情報が溢れて似たような話ばかりが広まりつつある現在、周りに埋もれないようにオリジナルの情報を発信することが果たしてできるのか?まともに収入を求めた場合、自分の身内だけの間では到底やっていけない人数だろう。情報を発信するための「効果的な」メディアは必須だ。毎日の農作業をブログにUPしていればいいというわけではない。

金融( ファンド)

では、自ら特徴のある経営をやろうと思いついたり、個人事業主の枠を超えて事業を行おうと思った場合、どこかから資金調達をして資本を増やさなければならない。金融対応が必要となってくる。まあ、農業というのは他の産業に比べたら金融制度は恵まれている方ではあるが、借りられるかどうかと返せるかどうかはまた別の話だ。きちんと返済できるような計画を実行するには、かなりの先見の明が求められるだろう。

逆に、これまでに無い新規性のある事業を思いついて行おうとした場合、保守意識の強い農業界においては、一気に資金調達がしにくくなる。誰も新規的な事業を理解する思考を持ち合わせていないのだ。だからと言って、ベンチャーキャピタル関係の界隈を期待しても、その業界の不透明性故、それも非常に難しいと言える。

地域付き合い

農業を行うということは、=地域の農村との暮らしを行う、ということだ。そうした心構えに加えて、人付き合いができる余裕を持ち合わせているか?……これは地味にしんどい項目である。いわば新規就農者とはベンチャースタートアップと同じ状態で、休んでいる余裕など無いのであるが、地域付き合いは完全にそんなことは無視して襲ってくる。筆者は辛うじて現状を説明して回避しているが、大体この手に絡む組織の中心人物たちは特に必死に労働をする必要もない方々なので、その意識には全く無理解である。

そして、地域付き合いを積極的に推奨してくる自治体もよくある。中には、地域付き合いをしないと引っ越しを認めない……という所もあるくらいだ。今やお金を払ってでも若者を地域に呼び込みたいというのが当然な社会なはずなのだが、何故か当の本人たちはそうした危機意識よりも、「知らない奴が生活圏内に入ってくるのが不安」という意識のほうが強いらしい。……より一層、人口流出は止められないと強く思う出来事だ。

家事

新規就農者に多いのが、「結婚して子供が生まれて就農しました」というパターン。子供がいなければまだいい。奥さんが労働力として働いてくれる。だがここに子育てが加わった場合は大変だ。「田舎でゆっくり子育てしながら……」と思っていたのが一変。逆に子育てもできないほど忙しくなる可能性もある。そしてその分の収入も必要となってくる。どのようなライフプランを立てるかはそれぞれだが、所得格差は選択できる人生の道幅を大幅に狭めてしまうことだろう。

では、そうしたしがらみもない独り身での就農はどうか?……これは、早々に雇用を考えなければならない状態に陥る。既にお分かりだと思うが、上記のようなことを全て一人でこなさなければならないのだ。……はっきり言って、無理である。何故かあれだけ大量の作物を作っていながら、食べるのはインスタント食品……などと言うことも普通にある。さらに都会ではないので、簡単に食事やその他の家事などをアウトソーシングできる環境もない。汚れた作業着の別洗いなども、全て自分で行わなければならないのだ……。

まとめ

さて、これだけ書けば分かってもらえただろうか。今、新規就農を考えている人たちには、このような試練が待っており、一つ間違えば簡単には抜けられない蟻地獄へと陥る可能性がある。最近ある関係者に聞いた話だが、やはり予想通り、新規就農者は激増しているそうだ。その理由として一つはサブカル系のブーム、もう一つがこれまでの大企業の景気減退、そしてそれを後押しする補助金制度の導入だろう。

これらの状況全てが、『政府に依存している形の一時的な農業体験』に等しい新規就農業界を生んでしまっている。そしてそれを志望する人たちの多くがこうした状況を知らない。さらに言えば、受け入れる側もそれを知らないし、知ろうともしない。なのでこうしてささやかに情報を発信しているわけであるが、果たしてどれだけの人に届いていることか……。

一つだけ言えるのは、まともで賢い人なら、とっとと他の道を選ぶだろう……ということだ。

相変わらず、優秀な人間が埋もれる仕組みになっているのが農業界なのである。

* 追記 *

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